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後ろ姿が振り向く。
目が合う前から少し笑っていた。
「よく間に合ったな」
「ほんとに乗らないでくださいよもーー……」
「姉貴絡むとめんどくせーんだもん」
なるほど、これでは確かに桜も淋しいかもしれないーー
逸は苦笑し、ボックス席の敬吾の向かいに腰掛けた。
車内は空いており、二人が乗った車両はほぼ無人だ。
まだ動かない車窓を眺める敬吾を、逸も眺める。
「ーーーん?」
その視線に気づいた敬吾が眠そうな横目をくれた。
「やっぱり似てますね」
「……そうかあ?俺弟だけど姉貴が美人なのは認めてるぞ」
「敬吾さんも美人ですよ」
「お前は目ん玉がいかれてる」
「もう……」
眠そうに、車窓に肘を掛け指の背に頬杖をつく敬吾を、やはり逸は微笑んだまま見つめていた。
「ーーあ、敬吾さんすみません……俺お姉さんにゲイなのばれちゃいました」
「あ?」
ふと片眉を上げ、すぐにそれを戻して敬吾はため息をつく。
「だろうな。まあ仕方ねえよ」
「付き合ってるのバレたらどうしようってすんごい焦りましたけど……なんか、俺の片思いってことでお姉さん納得したみたいで」
少し考えた後、敬吾がふっと笑った。
ーーああ、やっぱりこの人の、こういった落ち着いた綺麗さがすきだ。
目を細めて逸が微笑む。
「勝手に思い込んだんだろ?どうせ……」
「ーーーーー」
目を瞑ったままおかしそうに笑っている敬吾を、逸は微笑みを潜めて唖然と見つめた。
その逸の困惑に気づかないのか無視をしたのか、敬吾は少しだけ目を開きまた笑う。
そうして今度は深く目を閉じた。
「悪い、ちょっと寝る」
「あ、はいーーーー」
しばらくすると敬吾の肩が完全に弛緩した。
逸がそっと敬吾の隣に腰を下ろす。
今日ならば、こちらにもたれ掛かってくれそうな気がした。
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