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「じゃあ風呂溜めてきますね」
「ん………」
狭い浴槽に二人入ると想定すると、湯はあっという間に溜まってしまう。
蛇口を開けて更湯が溜まっていくのをその場で眺めながら、逸は呆然と考えていた。
(一緒に風呂は嫌がるのにな…………)
裸を見たことは当然あるし明るいところで行為に及んだこともあるのだが、敬吾はなぜか一緒に風呂に入るのは嫌がる。
おそらくは理性があるままに半端な甘い空気になるのが嫌なのだろうと逸は予想していて、事実その通りなのだが。
(なんで今日はいいんだろ)
やはり酒か。様様である。
ふっと笑って蛇口を閉じ、湯沸かしのボタンを押して逸はリビングに戻る。
敬吾はベッドに腰掛けたままだらしなく倒れ込んでテレビをザッピングしていた。
普段ほとんど見せない自堕落ぶりに、逸がまた困ったように笑う。
「敬吾さん、風呂すぐ沸きますよ」
「ん?んん、ありがと……」
「はい、おっきしてー」
これもまた酔っているからか、おちょくったような口を聞いても怒らない。
素直に体を起こすと、それを手伝っていた逸にキスをする。
逸が瞬いた。
敬吾は猫が毛づくろいでもするように呑気に無感動に、むにむにと幼いキスを繰り返して顔を離した。
逸の視界にきちんと顔が収まるまで離れても、その表情は未だ眠たげでまぶたは半ば落ちている。
本当になんとも思っていないらしく、それが嬉しくて逸は破顔した。
「ーーーお風呂入りましょうねー」
「んー」
手を引いてやると敬吾は大人しくついてきて、思いの外しっかりした手つきで服を脱いだ。
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