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(ほんとに脱いでるよ)
見た目だけは思慮深い様子で拳を口に当て、逸は未だ信じられない気持ちでそれを眺めていた。
敬吾の背中が顕になり、バックルの音がする。
それから、ベルトの滑る音、ジッパーの下りる音。
じわじわと心臓の音が大きくなっていく。
いくらなんでも、こんなやましさの欠片もない、風呂に入るためだけの過程に興奮はしないだろうと思っていたが。
甘い見積もりであった。
疾る気持ちでジーンズが下りる様を眺め、下着が下りるのを食い入るように見つめる。
(掴みてえー………)
欲望一色だった脳内に久しぶりに言葉が降ると、その瞬間に敬吾が逸を振り向いた。
「!!」
「先入ってるぞー」
「あっ、はいーー」
靴下すら脱いでいない逸に疑問を抱くこともなく、敬吾はさっさと浴室へ入っていく。
逸が慌てて服を脱ぎ後を追うと、簡単に体を流して敬吾は早速湯船に片足を入れていた。
険しいほど寄った眉根が心地良さそうだ。
「ぬぁーーーーー……」
「あははっ」
敬吾の唸りに笑ってしまいながら逸がシャワーを手に取る。
「俺先に洗っちゃいます」
「んー」
眠たげにそう返した敬吾はやはり頭を壁に預けて目を瞑っていた。
逸が慌てて髪と体を洗い終えると、そっとその頭を撫でる。
「敬吾さん、俺後ろに入りますね」
「ん……、じゃ俺出る……」
「いやいやそうじゃなくて」
「?」
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