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よく飲み込めていない様子ではあるが、逸の手に促されるまま敬吾は素直に背中を起こした。
そこに逸が入って背中から敬吾を抱き込むと、少々、いやかなり狭いながらも心地良さそうに体重を預ける。
「おー……、気持ちいーなこれ………」
「ですねー……」
「お前は大変だろ……」
「まあ俺は敬吾さんがいれば基本なんでもいいんで」
「当たってるけどな…………」
「はは、すみません……あっ勃ってはないですよ!?」
「ぶっ、わかってるけど」
敬吾の笑い声が静かになって行く。
眠っているわけではなさそうだ。
逸は目を細めて、湯気を含んで肌に張り付く髪を梳いてやる。
「………敬吾さん」
「んー………」
「敬吾さんて、なんで俺と付き合ってくれたんですか?」
「んー……?」
「俺いまだにいまいち分かってなくて」
「………………」
「や、嬉しいんですよ?ただ純粋になんでかなあって」
「んー……、なんでか………」
敬吾は長いこと二の句を継がなかった。
考えているのかいないのかも分からないが、その間も逸としては愛しい。
どこまでも真面目で無駄が嫌いで有能なこの人が、こうして日向の猫のように脱力しきって余所行きの顔を放棄していることが嬉しかった。
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