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やはり、鈍いながらも律儀に考え込む敬吾の肩に湯を掛けながら、逸は疾る気持ちで続きを待った。
どうかこの酒気と湯気にまかれてあることないこと言ってくれはしないかと願ったがーーーー、
敬吾が考えるうち感じてしまった照れが、僅かに理性の手綱を引き締めてしまった。
「んー……、お前といると楽かな……」
「楽?」
「んん」
こうして世話を焼くからだろうか。
やや落胆しながらもとりあえずは話してくれることを意識して喜ぶことにする。
「なんかー……頑張ってなくてもいいかなーみたいな……?」
「ーーーーーー、」
「俺基本どこ行っても面倒ごと押し付けられんだよな……」
「あーーー、分かるかも……敬吾さん意外とお人好しだからなあー……」
なんだかんだと頭に立たされたり頼られやすいしっかり者然とした敬吾の顔を思い返し、逸は少し笑った。
「なんでかは知らねーけど……。お前はそーゆーのしないし、そーゆーの俺に期待もしてない」
「ーーーーーー」
「から、楽…………」
敬吾の声音が間延びしてきた。
それと反比例するように、逸の胸はきりきりと詰まる。
つい数分前までは例えば「こんな時はときめく」だの「あんな時は格好いいと思う」だのと言ってもらえるかもと期待し、願ってもいたのだが。
今はもう、そんな欲求は些末で塵芥ですらあると思うほどーーー
敬吾の言葉が嬉しかった。
敬吾自身がどう思っているかは分からないが、逸にはまるで、敬吾が一番弱いところを晒しているように感じられた。
薄い肌のすぐ向こうに脈が走っているような、爪先で撫でただけで破けてしまいそうなほど、瑞々しくてやわらかなところを。
逸が何も言わないのを、敬吾は不審がらなかった。
あたたかな湯も背中の逸の肌も気持ちが良くて、力が抜ける。
ただぼんやりと、その心地よさに浸っていた。
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