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「トリートメントって。そんなんいらねーよ……なんなら俺リンスもあんまりしないぞ」 「えっ嘘、リンスって……コンディショナーでしょ」 「リンスだんなもん」 「なんかもう男は黙ってみたいに……つーか、ほんとにシャンプーだけなんですか?それであの髪なの?」 シャンプーを泡立てながら心底不思議そうに逸が訊ねる。 逸は本当に敬吾の髪が好きだ。 柔らかいがコシがあって、真っ直ぐで抵抗がない。 この通り周囲が思うよりは大雑把な御仁だが、そんな扱いをされても寝癖ひとつ見たことがない。 敬吾は自分の腕に向かって頷いた。 「だよ。ヌルヌルしてなんかやだ」 「へー………まあそれで綺麗な髪なんだからまあいいっちゃいいのか……」 世の女性が聞いたら憤慨ものだろう。 不思議そうな顔のまま逸が敬吾の髪に泡を乗せ、優しく頭皮をこする。 敬吾の肩がぴくりと震えた。 「ふ……っくすぐってーよ、弱すぎ」 「敬吾さんの髪傷ませたくないっすもんー」 「お前が今日丁寧にやったって俺明日からガッシガッシ洗うんだぞ。意味ねえから」 「えー、もうー」 仕方なく敬吾が納得する程度で逸も許容した。 こういう奉仕も非常に楽しい。 丁寧に頭を洗われ、雪がれるのは敬吾としても気持ちが良かったーー ーーが。 「なあ……」 「はい?」 「まだか」 「えっ」 いかんせん手順が多い。 一体何をそんなにすることがあるというのだ。 「この体勢疲れんだけど……」 「あっすみません!じゃあ、ちょっと待って……」 敬吾の頭の上でまたがらがらと戸の音がする。 そして。 ーー頭にタオルを巻かれた。 「はいっ、起きて大丈夫ですよ!」 「……………マジかよこれ………」 「ちょっと蒸します」 「蒸すってか……………」 横着せずに、さっさと自分で洗ってしまえば良かった。 敬吾は、心の奥底から後悔していた。
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