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ーーしてやったりと無邪気に笑っていた逸の顔が、敬吾を認めて愕然とし、ぱちくりと瞬いた。
「ーーあれ?敬吾さん?」
「……おう……」
「あれっ、おはようございます!すみません俺寝ぼけて……大丈夫ですか!どっか打ちました!?」
「や、大丈夫だ、けど」
ーーけど。
「あー、すみません……昔の夢見てたっぽい」
恥じ入ったように苦笑しながら敬吾を起き上がらせ、逸は伺うように敬吾を見た。
「ーーなんか言ってました?俺」
「…………いや、べつに」
「……そうですか?」
「…………………」
「ご飯作りますね」
「ーーおう」
なぜそう答えたのか、自分でも分からなかった。
誰と間違えたのかと、気軽に聞いてしまえば良かったのに。
ーーあの顔は初めて見た。
愛情に満ちた、けれどいたずらっぽい、子供のような遠慮のない笑顔。
(何考えてんだ……)
自分が知っていることが逸の全てなわけがないではないか。当たり前だ。
そう噛み締めて、ふっと勢いよく息を吐きだし気持ちを切り替えると、敬吾はベッドから起き出した。
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