立ち位置

14/14
前へ
/1199ページ
次へ
ーーしてやったりと無邪気に笑っていた逸の顔が、敬吾を認めて愕然とし、ぱちくりと瞬いた。 「ーーあれ?敬吾さん?」 「……おう……」 「あれっ、おはようございます!すみません俺寝ぼけて……大丈夫ですか!どっか打ちました!?」 「や、大丈夫だ、けど」 ーーけど。 「あー、すみません……昔の夢見てたっぽい」 恥じ入ったように苦笑しながら敬吾を起き上がらせ、逸は伺うように敬吾を見た。 「ーーなんか言ってました?俺」 「…………いや、べつに」 「……そうですか?」 「…………………」 「ご飯作りますね」 「ーーおう」 なぜそう答えたのか、自分でも分からなかった。 誰と間違えたのかと、気軽に聞いてしまえば良かったのに。 ーーあの顔は初めて見た。 愛情に満ちた、けれどいたずらっぽい、子供のような遠慮のない笑顔。 (何考えてんだ……) 自分が知っていることが逸の全てなわけがないではないか。当たり前だ。 そう噛み締めて、ふっと勢いよく息を吐きだし気持ちを切り替えると、敬吾はベッドから起き出した。
/1199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6784人が本棚に入れています
本棚に追加