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腰に回った逸の手が強くシャツごと食い込み、そこから脈が打つ。
「……岩井、なに、」
敬吾がそう絞り出すと、逸の手が腹から胸を撫で上げた。
ぞくりと走る痺れに敬吾が息を呑む。
「…………っ、こらやめろって、……岩井!これ、洗うまでーーっん、」
敬吾が呼んでも諌めても逸は何も言わない。
ただ衣擦れと肌の音、堪え切れなくなった自らの声が間抜けに響くばかりで敬吾はいたたまれなくなる。
背中に張り付いている逸の胸は破けそうなほどに強く打っているし、その手が服の中に入り込んで敬吾は一気に焦りだした。
からかっているのかと思っていたが、これではそうも思っていられない。
「岩井!こらっ、一回……一回待て!なんだ、どうした!」
後ろ手に逸の脇腹あたりをばしばしと叩いてやると、逸が不満そうに呻く。
「……………待て?」
「待てだ!なんだよ急に!」
どうにかこうにか蔓のように巻き付いていた逸の腕を剥がすと、その手がシンクの縁を掴んだ。結局閉じ込められているには変わりない。
その狭いスペースでなんとか逸の方に向き直ると、やはり逸はすっかり火の付いた目をしていた。
捕食かと思うほど獰猛に顔が近づいて、敬吾が反射的にその口を手で遮る。
「待てっつってんーーーわぁ!!!」
敬吾の手の平の中を、逸の舌が這い回っている。
驚いて手を引くも、強く手首を握られていてびくりとも動かなかった。
その手の上から、伏せていた瞳を上げて逸が敬吾を睨め捉える。
「!」
「したいです」
「ーーーーーっ」
「すげえ抱きたい…………」
今度は正面から敬吾を抱きしめ、堪え切れない熱を慰めるように逸は敬吾を撫でた。
その熱がざわざわと体中を侵すようで、敬吾が苦しげに目を細める。
この男は馬鹿だが、
ーー自分も馬鹿だ。
「……っ岩井、じゃあ……これだけ洗ったら、」
「明日おれ洗いますから」
「じゃ、じゃあシャワー……」
「いりません、敬吾さん」
ぐっと強く腰を寄せられ、敬吾は悲壮に眉根を寄せる。
「抱かせて…………」
「っ………………」
ーーー本当に、大馬鹿だ。
泣きたいような気持ちになって、敬吾は逸の肩に顔を埋めた。
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