褒めて伸ばして

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逸が自覚しているかは分からないが、こうして毎夜手を出すのは恐らく後藤のことを引きずっているからだ。 それがあるから敬吾としても求められると無下に断れなかったし、どうしても嫌というわけではないので応じていたがここまで来ると。 さすがに負担である。 「………………岩井」 「はい?」 敬吾がすっくと立ち上がる。 やはり芸術じみているなと思いつつ、敬吾のどんよりと暗い視線をものともせず逸はそれを眺めた。 「待てだ」 「えっ?」 「待てだ、っつってんだ。しばらくお触り禁止」 「えっ………………!」 一向に冗談だとは言ってくれない敬吾の無表情は崩れない。 俄然慌てて逸が起き上がろうとすると、その目の前に敬吾の手の影が落ちる。 まさしく犬の躾だった。 「う、嘘ですよねえ……」 「嘘じゃねえよ」 「…………………」 黙り込んだ逸の顔がどうにも剣呑だった。 反故、と堂々たる手跡で書いてある。 「………言っとくけど」 逸の肩がひくっと動いた。 敬吾が呆れたため息をつく。 できなかったらどうしようか、と高速で考えるものの、逸を調子づかせないうちの数秒で妙案は浮かばなかった。 なにせ相手は逸である、理解は全く出来ないが、自分のことをやたら大事ている。特にセックスともなればーーその罰にできるものなど、そうない。 「………………敬吾さん?」 「!」 やはり長くなってしまった沈黙に、逸はむしろ怯えたようだった。少しほっとして敬吾はまた考え直す。 本当に、牽制の材料が何もないーー 恐ろしいことに、敬吾の知る限り逸には弱点がないのだ。 あるとしたら敬吾自身か。 そこまで考えて、敬吾は不安そうに自分を見上げている犬顔を見つめた。 そしてため息をつく。 ーー相手は犬だ、有効なのは、鞭よりも飴か………。
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