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首元に触れる逸の呼気が熱い。
逸の表情は穏やかだが閉じた瞼の裏は今は叶えられない妄想で一杯だった。
「あと……靴と下着も。どれが似合うかなって考えるの、すげえ抜けます」
「っおい!!?」
すっかり泡食って敬吾が逸の手を掴むが、より強く抱き竦められただけで終わる。
焦燥に歪んだ敬吾の顔がすっと熱を失うと、尾骨の辺りに、ジーンズの許容を顧みない逸のそれが強く当たっていた。
「ーーーーちょっ、おいおい」
「ん……」
逃げようにも強く抱き留められているのでバランスを崩し、敬吾はシンクに手をついた。
「っふふ、立ちバックしてるみたいですね」
「お前っ………」
「ねえ敬吾さん、今このままやっちゃったら、何かおしおきあるんですか?」
熱に浮かれて潤んだ声で囁かれ、敬吾は思わず背を反らした。
ぞくぞくと熱が這って、湯通しでもされているかのように身が縮む。
「……っ別にねえよ、どうせお前……何言ったって別にいいですとか言うんだろ!」
「あはは、そうですね。敬吾さんとセックスするのに比べられるもんなんかないですもん……」
「ーーーーー」
逸の口から改めて言われると、分かりきっていたことが鋭く鮮やかに刺さった。心臓が痛むほど。
本当にこの男は、こっ恥ずかしいことを平気で言うーー。
「っけどご褒美は当然無しだぞ……っ」
「……ですよね。我慢します、楽しみにしてるんで……」
「ーーーーーー」
敬吾が固まったままでいると、逸は押し付けていた腰を離し腕からゆっくりと力を抜いた。
敬吾がくたりとシンクに凭れ掛かる。
その敬吾を追い打つように、逸は後ろから肩を抱き真っ赤な耳に口を寄せた。
「……これ処分してきます。夕飯の前にまた来ますね」
わざとらしく抑えた声で囁かれ、敬吾がまた小さく仰け反る。
そこにふっと空気のような笑みだけ残して、逸は部屋に戻っていった。
「………処分て」
敬吾は暫しそこに固まったまま、飴も鞭も少々度が過ぎていたかーーとやや後悔していたーー。
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