褒めて伸ばして

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「あー、やべ、いてえ………」 部屋に入るなりバックルを外し、リビングに入ってすぐ逸は膝を落とした。 敬吾の部屋からここまではほんの僅かな距離だが、それでもてくてくと歩いてきているのに衰えないとは。 「敬吾さんすげー……もう怖い」 触れたわけでもないのにここまで興奮させられる。 手を出しすぎて諌められてしまったが、責任は自分にあっても原因は敬吾にある、と逸は思っていた。 ここのところの敬吾は色気が立ち過ぎる。 立ち居振る舞いが変わったわけではない、態度や言葉遣いが変わったわけでもない。 それなのにどうしてこうも掻き立てるのだろう、これが色香と言うものかと、全身で溺れながら理解するような。 触れたくて、抱きとめておきたくてどうしようもなくなる。 そう思うのが自分だけであるように切に願いながら。 「…………………っ、う……」 その一瞬の差し水のような憂慮はすぐに熱で掻き消された。 体中を沸騰させるような興奮の根にはやはり敬吾がいる。 腹から胸までを一直線に撫で上げた時の手触り、恥じ入って抑えられた声、ねだるような視線、粘膜の感触ーー。 脳が熱暴走でも起こしたのか、次々と虚構の五感の上に再現されて止まらない。 性急に半ば取り出しただけのそれを擦り上げ続けると、呆れるほど豊かに濡れた手の中が強く脈打つ。 左手でボックスティッシュを手繰り寄せると、テーブルから豪快に落ちてしまった。 慌てて裏返った箱に手を伸ばしつつも、頭の中は目まぐるしい再生が止まらないので状況は切迫する。 逸はかなり際どいところで、やたらと嵩のあるティッシュの中に吐き出した。 自給自足機能の優秀さゆえ激しい快感に腰が抜けそうなほどだが、やはりーー (虚しー………) 嵐のような興奮がどこぞへ消え去ると、残ったのはここのところお馴染みの妙に空っ白い気分だった。 敬吾を抱いているならば何度目でもこんな冷めた気分にはならないのに。 嵩はあるくせに隙間の多かったティッシュから手に少し付いてしまい、逸は床に肘をつきつつ慎重に後始末をする。 ーーこれも、また虚しい。 ため息をつくと少しは気が軽くなったように感じる。 そう思い込むことにして逸は立ち上がった。 (シャワー浴びよ……) 頭の中は既に、夕飯の献立一色になっていた。
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