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「お邪魔しまーす。敬吾さん、今日久しぶりに鉄板焼きしません?」
「あー、いいな」
何やら部屋から持ってきたらしい食材を逸がシンクの横に置いている。
敬吾が寄ると微かに石鹸の香りがした。
「? お前シャワー浴びてきた?」
「え?はい」
逸はきょとんとしたように、だがやや苦笑して頷く。
その表情で敬吾はやっと馬鹿なことを聞いてしまったと自覚する。額を叩きたい気分だった。
「敬吾さんて鼻いいですよね」
「そうか?」
「だから精液の臭いするかなーって思って」
「……………。そうかい」
妙にあどけなく追撃されてしまい、敬吾はそうとしか応えられなかった。
そのまま逸がここへ来たとして気づいたかどうかは確かめようもないが、それよりもこの温かい乾いた香りが。
やけに敬吾の神経を刺激した。
その爽やかさとは裏腹に、少し切ないような腹が立つような気持ちにさせる。
「…………?」
訝しげに首を捻る敬吾を、たまたま視線を振った逸が見留めた。
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