褒めて伸ばして

13/24
前へ
/1199ページ
次へ
「おはようございまーす」 「おはよー」 タイムカードを押す逸を、幸は仕事の手を止めて見つめた。 「逸くんどうかした?」 「え?」 「最近元気ないよね。だるそう」 「あー……」 逸は苦笑した。 確かにここのところ体がだるい。 気持ちにもいまひとつ張り合いがないので怠惰にも見えるだろう。 理由はもちろん幸が心配するような不調ではなく、単に自己処理のし過ぎだーー 間違いを予防する意味ももちろんだが、何よりも、処理せずに敬吾に会うととても辛い。 それが嫌で必要以上にしてしまっている。 ーー結果、この無気力である。 (セックスとオナニーってなんでこんな違うんだろうなー……) どうしても、胸中に独りごちてしまう。 「今日はちょっと寝不足。スマホゲームにハマって」 「あー。今日力仕事だよ、大丈夫ー?」 幸は仕方がないなあとでも言いたげに苦笑した。 逸も自らに呆れていた。 「大丈夫大丈夫、棚がえの続きだよね」 「つっても敬吾さんが昨日今日でかなり進めちゃったんだけどねー、乗ってる時にガンガン行くとか言って」 幸が店の見取り図を指し示す。 進捗具合を表す赤ペンのチェックが、ほとんどの箇所に施されていた。 「えっ、こんなに!?嘘でしょ!!」 「敬吾さん最近元気だよねー」 その言葉に、逸はずんと沈んだが幸はからからと笑っている。
/1199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6813人が本棚に入れています
本棚に追加