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「あたしだともう手伝えることなくて、細かい片付け回してもらってるよ。逸くんもやることないかもだけど一応聞いてきてー」
「うん………」
逸の耳は半ば閉じてしまっていた。
自分の体の中からの声が大きい。
自分はこの様で敬吾は元気、かーー
(……吸い取ってたのか?俺)
「おーい!逸くん!だいじょぶー!?」
「えっあっ!大丈夫ごめんごめん、行ってくんね」
見透かされてしまいそうで、逸は慌てて幸に背を向け敬吾のところへ向かった。
「敬吾さん、おはようございます」
「おう、おはよう」
挨拶を返しながらも、棚に商品を詰め込む敬吾の手は止まらない。
何か考え直したのか、また取り出して陳列を変える流れにも淀みがなく、そして速い。
(ほんとに切れてんなー……)
身勝手にも落ち込んでしまい、それをなんとか飲み込んで逸は敬吾のそばに並んでしゃがみこんだ。
「手伝えることありますか?」
「ああー、うん……先のことあんまり考えてねえから、指示出せないんだよなあ……いまさっちゃんにサンプル掃除してもらってるから、それバックヤードに仕舞ってきてくれ、その間考えとく」
「了解です」
そう言いながらも敬吾は逸の方を見ない。
逸はくすぐったそうに苦笑した。
敬吾の口調と表情が脳みそをフル回転させている時のもので、御託は並べてもそういう敬吾を見るのも結局好きだ。
恐らく今、今朝のことを言っても何をしても意識に入れないだろうなと思う。
何も言わずに逸は幸のところへと戻った。
「俺も指示待ちー。それまとめて仕舞ってくるから台車持ってくんね」
「はーいよろしくー」
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