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昨日までは妙に落ち込んだ顔などしていたくせに、
今日の逸は天井なしに犬っぷりを発揮している。
それもなんと言うか、寝ている飼い主を全力で起こしに掛かる類の犬だ。
「んんー?いや、なんでもないですよー?」
「おかしいだろ…………」
疲れたように脱力する敬吾の手からシャワーを取り上げ、逸は敬吾を抱きかかえたままその肩に湯を流す。
そっと手で撫でてやると敬吾の肩が縮み、逸はまた嬉しげに顔を綻ばせた。
「いや、言ったら多分敬吾さん怒るから」
「はぁ?」
「んー…………」
言おうか言うまいか悩んでいるような振りをしながら逸が敬吾の首すじを吸う。
「敬吾さんって俺が思ってる以上に俺のこと好きなのかなぁとか思いまして」
「………………ん?」
ぐっと不可思議そうに眉根を寄せ、敬吾は逸を振り返ろうとした。
思いの外体重がかかっていてできなかったが。
「……敬吾さんは、眠い時が一番素直」
「…………………へ」
「えへへ…………」
けれどそれを、敬吾が敬吾らしい時にしっかりと自覚して言ってもらえるようにならなければーー。
浮かれるような気持ちでそう思いながら、その焦がれるような日が来るまでは調子に乗っておこう、と逸は自らを奮い立たせる。
どうあっても離したくない。
お前など嫌いだ、もう別れると言われるまではーー考えたくもないがーー図太く、この人を独占していよう。
「敬吾さん…………」
「っ……………」
「………………大好きです」
結局はこうして、至らない自分を甘やかしてくれる、この人を。
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