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この通りの黒山の人だかりでは距離の取りようもなく、不本意ながら逸は後藤と連れ立って外へと出た。
「岩井くんこのバンド好きなんだ」
ガラスの扉をくぐり外に出ると、人口密度は一気に下がる。
だが後藤は別行動をするどころか逸に話し掛けた。
げんなりと半眼になり、そこを離れられない逸は仕方なく口を開く。
「そりゃまあ」
「じゃあこれあげる」
「は?」
後藤が逸の手に握らせたのはベースのピックだった。
「俺チケット譲られて……あっやべえ、物販頼まれてたんだった!ちょっと岩井くんここで待っててよ!」
「えぇ!!?」
言うなり後藤は驚愕している逸を尻目に、今出てきた扉へとまた飛び込んで行く。
今のうちに立ち去ってしまいたいが、逸の連れもまたまだ買い物をしているのだ。
早くしてくれ、と疲れたようなため息をつきつつ、無理に熨斗つけられたピックを眺める。
欲しくないわけではないが…………。
逸の願いも虚しく、先に出てきたのは後藤であった。
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