酔いどれ狼

6/26
前へ
/1199ページ
次へ
そこへちょうど揚げ物の盛り合わせとピザが供されて、後藤は店主を捕まえる。 「なあ、軽めで水割りくれ、レモンもいっぱい絞って。俺ハイボール」 「え、ちょっと!」 「岩井くんやらかした時何飲んだの」 「いやいや、飲みませんって俺」 「体でかいからってがばーって飲んだんじゃないのー?サワーとかカクテルっぽいのとかー」 後藤の予想は、まさにその通りだった。 ワインは腹立ち紛れに呷ってしまったが。 思わず黙り込んだ逸に後藤が笑いかける。 「変に割ってあんのとか醸造酒苦手なタイプなんじゃね」 勧められたグラスは逸のイメージする水割りとは程遠い透明度だったが、驚くほど良い香りがした。 「うっわ良い匂いする……」 「ちょっとずつゆっくりな。食いながら」 「飲みませんって」 グラスを置いてピザに手を伸ばした逸を、後藤は楽しそうに眺める。 「ふたりで晩酌とかしたくねえのー?」 さくりと玉葱を噛む音がして以降、逸の頭の中は全くの無音になった。 厳密にはまだ雑音がかっているがーー ーー晩酌。 敬吾と。 隣に座って、酌をしてもらうーー? 「……って言うかね」 笑いを堪え、口元を拳で隠しながら後藤が最後の一押しに出る。 「そんな酒癖悪いんなら逆に飲めるようになんないとやべえと思うよ?ペースとか限界とか把握しとかないと」 「………………」 「もし暴れたら俺止めるし」 「そしたらどさくさに紛れてぶん殴ってもいいっすね。」 「あっはっは!」 後藤の笑い声は無視して、逸はほんの僅かに唇を濡らした。
/1199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6776人が本棚に入れています
本棚に追加