酔いどれ狼

7/26
前へ
/1199ページ
次へ
敬吾が髪を拭き拭き浴室から出てくると、携帯が着信を知らせていた。 発信者は、後藤。 怪訝に思いながらも端末を耳に当てる。 「もしもし?」 『あー、良かった繋がった』 「え、何事?」 『今岩井くんと飲んでたんだけどさーーー』 「はぁ!!!!?」 前のめりになるほど驚いて敬吾が絶句していると、しばらくして小さな後藤の笑い声。 「……………飲んでる?岩井が?」 『そうーーーーえ?怒ってる?』 「…………………」 気軽だった後藤の声が神妙に抑えられ、それを遠くに聞きながら敬吾は考えていた。 逸が酒を飲んでいる? 怒っているかどうかは分からないが、いたく衝撃は受けていた。 『敬吾?聞いてるか?』 「……………おう」 『俺が勧めたんだよ、岩井くんは飲まねーっつってたんだけどさ。ごめんごめん』 慌てたような後藤の弁解に、敬吾は思わず詰めていた息を逃がす。 逸が自分から進んで飲んだわけではないらしいことが、いくらか気持ちを軽くした。 『んでさ、岩井くんちってどこ?送ってくわ』 「潰れてんの?」 『んー、そこまでじゃねえけど、一人じゃ無理だな』 潰れてるじゃねえか。 ぱたんと顔に手を当てて、敬吾はまたため息をついた。 何か醜態を晒していなければいいが。 「……じゃあ、俺の部屋連れてきてくれ」 『おぉー??』 「違うって、もともとアパートが一緒だったんだよ」 『へぇー??』 「………住所言うぞ!」 完全に囃し立てている後藤に苛つきつつ用件を済ませ、通話を切って敬吾はまたもやため息をついた。 「飲んだぁーー………?」 怒るべきか心配するべきかも、いまいち分からなかった。
/1199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6776人が本棚に入れています
本棚に追加