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「どうこれ、普段よりはマシ?」
「あー全然マシ」
敬吾の不安を裏切って、後藤に連れられ帰ってきた逸の様子はごく普通の酔っぱらいの範疇に収まっていた。
足元は覚束ないが暴れた様子も戻した様子もない。
やや雑な扱いで玄関の中に引きずり込まれる逸とセーブしてくれた後藤に感心はするものの、やはり。
「つーかな、飲まねえっつってる人間に飲ますなよ!こいつほんとタチわりいんだぞ」
「うんごめん、確かに回んのは異常に早かったわ。けーごさんけーごさんうるせーし」
「えっ」
ーーやはり何か醜態でも晒したのか?
敬吾はひやりとするが後藤はなんとも思っていないようだった。
「でも慣れてけばなんとかなりそうだぞ?安酒ダメなタイプっぽいけど」
「あー」
「けーごさん……」
「ぶふっ」
始まった、と言わんばかりの顔で後藤は逸を敬吾の方へ押しやる。
どろりと落ちていた瞼の奥で敬吾と目が合うとーー
その目が僅かに見開かれ、頬が弛んだ。
「けーごさんだーー………」
「いや、えっ、おい」
逸が腕を広げながらよろりと歩み寄ってきて、仕方なくそれをどうにか支えているうち後藤はノブを捻っていた。
「がんばれよー」
「ちょ、後藤、重っーーおい、」
「けーごさんー」
よろめきながらも逸はなんとか自力で立ち、敬吾に抱きついた。
それと同時に、楽しげに手を振った後藤が出ていきドアが閉まる。
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