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頭も体も、ほわほわと軽く暖かくて不思議な感覚だった。
きちんと折り目のあるような感情はなく、ただ素直に目の前にいる敬吾がやはりふわふわと愛おしい。
それを、「今は駄目だ」などと思うことはない。
「なっ、こら!」
逸が敬吾を抱き寄せてその胸に顔を埋める。
当然敬吾は諌めるが、逸は全く意に介さず動かない。
ため息をつき、敬吾はそのまま逸の髪を濡らした。
「目ぇ瞑ってろよ」
「あいー」
髪を濡らし終え、シャンプーを取ろうにも逸はやはり縋り付いてくる。
まるで蜘蛛の糸に縋るような欲深さに敬吾は心底呆れていた。
一向に逸が離れないので、敬吾は仕方なく髪を洗い始める。
逸は、安否が不安になるほど動かなかった。
終わったぞ、と敬吾に言われてやっと顔を上げる。
生きていたし、笑っていた。
少々ぬるついていそうな顔を流してやってもまだ、目を閉じて笑っている。
「おい、寝てんのか?」
小さく飛沫を零しながら逸はふるふると首を振った。
「きもちよかったですー」
「………………」
広い肩をゆるりと落として、逸は幸せそうに言う。
それが伝染してきてしまい、敬吾は不覚にも赤くなった。
ひとつ咳払いをし、意識しててきぱきとタオルを泡立てる。
首すじから肩、腕、胸と流してやるとまた更に幸せそうに逸が笑った。
大人しくそうしてにやけているので敬吾が油断したところに、泡だらけの腕がするりと巻き付く。
「んわっ!」
「敬吾さん……」
「おいっ、こら………」
敬吾が諌めても、逸はむにむにと顔を擦りつけ幸せそうに唸るのみ。
これは聞きはしないだろうなーーと仕方なく敬吾も腕を回し、子象の飼育員にでもなったつもりでその背中をがしがし擦ってやった。
逸は一言イタイと零したが、敬吾としては手を動かすべし、である。
ごく真面目に事務的に届く範囲を洗ってやって、さて、と思ったところで、ようやくどうも怪しい雲行きに気がついた。
なんだか背中を撫でられている。ぬるぬると。
「……………。おい。」
「んーー…………」
ああ、この声はもう駄目だ。
一瞬でそう確信してため息をつき、敬吾はシャワーヘッドに手を伸ばす。
事情聴取は御免だ。
「……ここはダメだぞ」
「ふふ、……はい」
呆れたような表情の敬吾に背中を流されながら、逸はやはり幸せそうに笑っていた。
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