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脱衣所に出ると逸は、体を拭き終えた後さっき自分が濡らした床も律儀に拭いた。
そう立ったり座ったりするな、と敬吾が手を出しかけるが、逸はひとつもよろめかない。
「……………。岩井」
「はい?」
「お前もしかして酔い冷めて来てる?」
「えっ」
やや呆けたような敬吾と同じように、逸もまた瞬きながらそれを見返した。
そして、子供のように首を傾げる。
「……あれ?そうかも」
言われてみれば、意識が遥かにはっきりしている気がした。
かと言って全くの素面かと言われればそうでもなく、少しは靄がかってどこか適当なような気持ちだが。
先程までよりはかなりしっかりしている逸の目を見て、敬吾は笑った。
「代謝良すぎだろ」
「そうなん、ですかね?」
「頭痛とかは?」
「やー、ぜんぜん」
もちろん酒の量自体少なかっただろうし、それは大きそうだが。
「これならそのうち普通に飲めるようになるかもな」
からかうように敬吾に頭を撫でられ、逸の目がふっと自分の内面を見る。
大事なことを思い出していた。
「けーごさん」
「んー、うぉ……っと」
死角から抱き竦められ、敬吾は驚いたように瞬く。
逸は冷たい髪をすり寄せていた。
「……そしたら、お酌してほしいな……………」
「………………え、」
「お酒」
「ーーーーーー」
突然何を言い始めるのか、と敬吾がまだ考えているうちに逸の腕が解け、唇が触れる。
するすると脇腹だの胸だの撫でられて、素朴な疑問は放棄させられた。
優しく触れていた唇が深く、激しく貪り始める。
口の中から直接響く濡れた音が理性を薄くして、既にーーと言おうかま未だと言おうかーー熱い逸の指先が背骨や胸を擽った。
そうなると、もう。
支えられるのは敬吾の方である。
「敬吾さん……」
「っん……」
やはり熱い逸の吐息が顎を掠める。
敬吾はまともに顔を見られなかった。
「……してもいい?」
「っ、聞くな、もう……」
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