酔いどれ狼

19/26
前へ
/1199ページ
次へ
普段基本的には底抜けに優しい、なんとなれば少々情けない逸に強引に抱かれるのは確かに、不思議な昂揚があった。 自分の意思が物の数にも含まれないほどの熱量で求められ、水や呼吸に近い水準で必要とされているような面映い感覚。 まるで物のように所有されているのだと思い知らされるような、歪んだーー恐らく、歓喜。 それらは否定できなかったーー そしてまさに今現在その只中に飲み込まれてしまっていて、もう何も考えられなくなっている。 自分の鼓動と呼吸があまりにうるさくてーーー 「……敬吾さん、今言って、くれたら俺……甘いのに、しますよ?……………」 ーーどうにかこうにか、希少な精油でも抽出するように絞り出した逸の最後の気遣いも、聞こえなかった。
/1199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6808人が本棚に入れています
本棚に追加