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「……………敬吾さんーーーー」
覆いかぶさっている方ーー逸が、呆然としたような声を出す。
その中にやはりどうも激情に似たような色を感じて、敬吾は溜め息をついた。
なんと言うかもう、ビーズクッションと毛糸玉とティッシュと猫を放り込んでもここまでできるだろうかと思える混沌の最中で、それでも最初に解かなければならないのはやはりそこである。
「言っとくけどさっきまでその人の彼女もいたんだからな……、九条ごめん。それ俺の彼氏」
「えっ!!!」
素っ頓狂な声を上げたのも、逸だった。
「えっじゃねーよどけ!」
「あっはいっ、」
諸手を上げながら逸がソファに乗っていた片膝を下ろし、敬吾の傍らに立つ。
「あのおれ何もーーー」
「ごめんなさいは。」
「すみませんでした」
敬吾が九条を掌で指し示し、操られるように逸が頭を垂れた。
一貫して放心していた九条が弾けるように笑う。
「いえいえーー」
「そして帰れ!」
「うっ、はい……」
尾を下げた犬のような姿で逸が退室し、敬吾は大きく溜め息をついた。
それからようやく本分を思い出し、提げていたレジ袋からスポーツドリンクを取り出して九条に手渡す。
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