したいこと?

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逸がくすりと笑い、また敬吾の隣に横たわりながら上半身は覆い被さった。 暗くなった視界を逸の方へ広げると、唇を撫でられる。 「俺にもつけて欲しいな……」 「………………」 「あ、いや首とかでいいんですけど」 慌てたように逸が苦笑するが、敬吾としては無論そんな心配はしていない。 毛頭、頭になかった。 まだぼんやりとした表情のまま、敬吾が逸の頭に腕を回す。 逸は嬉しげに頭を垂れるーーが。 ぐちりと肉の軋む音と、肩に激痛が走った。 「いだーー!!!」 「ふはっ………」 食い込んだ歯が外れる音までさせて、敬吾はぼすりと頭を落とす。 さっきまでの慇懃な表情などかなぐり捨て、逸は子供のように動転していた。 敬吾はそれを心底楽しそうに眺めている。 「っはは、またくっきり付いたな………」 「いっっったいほんとびっくりしたぁ!!」 「噛み心地いいな、お前の肩」 「なんですかそれぇ」 半泣きになっている逸の頭を撫でてやって、敬吾はその手もぽすと落とす。 今度は逸が敬吾の髪を撫でた。 「……疲れちゃいました?」 「んー、ちょっと寝る………」 「はい………」 うとうとと瞼を落とした敬吾を抱き寄せて逸も横たわるが、今の一撃で目はすっかり覚めてしまっている。 敬吾が寝息を立て始めた頃またかしずくような気持ちで体を拭いてやり、腿の付け根や脹脛に赤い跡を刻んだ。 忠誠でも誓うように。 そして、時折ちりちりと痛む肩口を撫でて笑った。 まさか噛まれるとは思わなかったーー ーーけれど、こうしてからかわれたり振り回されたりすることこそ、敬吾にしかされたことがないかもしれない。 敬吾もまさかこれまでのーー異性のーー恋人に噛み痕など残したことはないだろう。 じわりと胸の底が温かくなる。 「……今日のご飯、敬吾さんの好きなのにしますね」 小さく囁くと逸はベッドを降り、そっとタオルケットを掛けてやった。
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