アクティブ・レスト

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敬吾の声で常識を諭されると逸は弱い。 スイッチを切り替えるように姿勢を正し、逸は「はい」と応じた。 そうしてまた、意識して拗ねたような声を出す。 「ーー敬吾さん、じゃあ俺は?」 「……? ん?」 「誰に労ってもらえばいいですかね」 「………………」 「……逸くーーーん?」 「はーーーい!今行きますーーー」 快活な響きの逸の返事が、敬吾には空っ白く感じられる。 「ーー考えててくださいね」 笑いを含んだ、変に平らでいやらしいこの声こそがーーー (本性出しやがった………っ) 「んじゃっ、敬吾さんまた後で!」 また軽やかになった嘘くさい逸の声に、敬吾は携帯を取り落とす。 逸は機嫌良さそうに、こちらを向いている面々の方へ小走りに駆け寄った。 「敬吾くん来れるってー?」 「いやダメみたいです、なんか課題だかテストだかがどうのこうの」 「なんだよ相変わらずだなー!遊べよ大学生!」 やはり豪快に不服そうな顔をした八幡に、逸は苦笑を向ける。 「俺の分まで労ってこいって仰せつかりましたーー」 「もーーー、じゃあそうしてもらうかぁーーー」 「俺も岩居くん飲んでるとこ見てみたかったなあー、真面目な人って酔うと面白いよね」 「敬吾くんはそんな変わんないよ?」 「そーなんだー」 やいやい言いながら歩き出す集団の半歩後ろにつき、逸は少々人相の悪い形に口の端を上げていた。 ーー他の誰がどれほど疲れていようとも、 あの人が労っていいのはーーー俺だけ。 「もー、じゃあ逸くん飲むぞー!」 「…………あっ俺下戸です!」 「はぁー!?その図体でぇ?」 「そーなんすよ……あっでも回りが酔っ払ってると一緒にテンション上がるんで大丈夫っす!」 「そーなのー?」 「そっすー」 ーーとは言え。 この人たちと今日まで頑張ってきたのも確かなのだーー 八幡の太い腕に首根っこを巻き込まれ、逸は久方ぶりに肩の力が抜けて行くのを感じていた。
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