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「その時まともにお礼も言えずに……もしまた会えればと思ってたんですが、生活圏が被ってたようで。今日みたいに何度かお見かけしたのに、えーーーと」
徐々に徐々に小さくなっていく柳田が、可哀想に思えてくる。
逸と敬吾は、つかまり立ちをする赤ん坊でも見るように今助けようかどうしようかと二の足を踏んでいた。
結局それを破ったのは敬吾だった。
「……怖くて声掛けらんなかったって言っていいと思うよ?」
「いっ、いえいえ!滅相もない!」
相当に失礼な物言いをされているものの、慣れているのか後藤は渋い顔で朧げな記憶を辿っている。
「覚えてねーな?」
「はい。」
こちらも敬吾に助け舟を出され、後藤はこっくりと頷いた。
柳田は拍子抜けしたようにぽかんと口を開けている。
「まあそんなこともあったかもしんないけど、俺覚えてないし。まあお気になさらず?」
こちらも拍子抜けしたように背もたれにもたれながら後藤が言うと、柳田は齧り付くように首を振った。
「いえっ!!俺はもうほんとにっあの時怖くて!!まさか助けてくれる人がいるなんて思ってもみなかったので感動して…………本当にありがとうございました!」
「いやほんとに……大したことじゃないって、気にすんな」
「凄いことですよ!」
「お、おぉ……」
「後藤が押されとる」
「ね」
だいぶ前から、逸と敬吾はドリンクのお代わりを頼みたくなっている。
「じゃあーー後藤は覚えてなかったけど、これで解決?」
「ああ、そうだなぁ」
「ですね」
一瞬だけぽかんとした後、柳田はまた顔を赤くして恐縮しきりに頭を下げた。
「あっ………お騒がせしちゃってすみませんでしたっ!」
「いやいや。こっちこそ顔覚えてたら済んでた話だし。なんかかえってごめんねー」
容疑者扱いをやめるように敬吾が席を立つと、柳田は腰を浮かせながらも「何かきちんとお礼をしたいんですが」と言う。
「いやほんとよくあることだから気にしなくていーよ」
後藤が応じると、柳田は明け透けに落ち込んだような顔をした。
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