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「だって帰る時のあの顔見たらなんかもう、応援したくもなりますよ」
「………………」
言われて敬吾は思い返してみるが、何も思い当たらない。
驚いたらしい敬吾の顔から視線を外し、全くもう、とでも言うように逸は重ねて言った。
「ちゃんとお礼がしたいって言ってたでしょ?俺にはあれ、二人で食事でもしたいです!これきっかけに仲良くなりたいです!って言ってるようにしか聞こえませんでしたよー」
「………………えーー………?律儀な人だなーとは思ったけど……………」
「ほんっと鈍いんだから…………」
そうこぼしながら敬吾にお茶を注いでやりつつ、逸はため息をつく。
敬吾が折に触れて「自分はモテない」とこともなげに言う訳を、心底理解していた。
「じゃ、賭けてみます?」
「ん?」
「俺はーー上手く行くかはともかく、惚れてるに賭けます。敬吾さんはこのまま何もないで」
「賭けない」
「えっ」
「顔に出てんだよ!賭けるもんが!!」
「そんなとこは鋭いんだからもー……」
「うるせー鉄砲玉」
「うっ……下っ端………」
根に持たれていた。
「あれはー、後藤さんと並んでれば、の話ですよー、敬吾さん超オンモードだったから」
「オンん?」
「あんなに気ぃ張ってるとこ久しぶりに見ました」
「………………」
ーーだって、それは。
敬吾も敬吾なりに気を使う。
分かって言っているのかと思ったが、ちらりと見上げた逸の顔はむしろ機嫌良さそうで敬吾は少し驚いた。
「ーーで、今すごいオフでしょ?……気ぃ抜けててすごい可愛いです」
「かわ……、なんだそりゃ」
「全っ然、どっっこも、力入ってない!ってかんじ」
「………………。そりゃそうだろ。家だもん」
「んーーー、まあそうなんですけどね?」
納得はしていないようだが不満げなわけでもなく、逸は困ったように笑って首を傾げる。
どこにいるから、ではなく誰といるから、なのだとーー
気づいてはくれないだろうか、やはり。
(鈍いもんなあ)
満足そうに笑って、逸は追及はしないでおこうと決めた。
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