襲来、そして

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敬吾が入ってきていることには気付かず、逸は鍋の中を軽く流して五徳に置いた。 ところで、肩口にごつんと重い衝撃、と腰に何かが纏わり付く感触。 「うぉお!!?」 考えるより早く、体がそれを敬吾だと理解する。 驚きはしたもののやはり嬉しくて、逸は酸っぱいものでも食べたようにたまらなそうに顔を歪めた。 (かわいーーーーーーっ………) あんな不機嫌そうな顔をして抱きついてくるだなんて。 天邪鬼も良いところだ。 「敬吾さん?どうしたん………………、………………?」 父や兄のように微笑ましげだった逸の顔が、徐々に冷えて固まっていく。 そこからまた、今度は温かいと言うより熱い方へ、表情は頼りなく蛇行した。 「っけ、敬吾さん?…………」 「んーー………?」 敬吾の声は、くぐもってはいるが冷たくない。 しかしやはり平坦で、今度は苦り切った顔をどうにか笑わせている逸の震えた声とは対極だ。 「……………!っ敬吾さん、そんなされたら俺、勃っちゃいますー…………」 逼迫した状況をどうにか冗談めかして絞り出すと、敬吾がふっと零した呼吸にやっと感情が滲む。 「……勃たそうと思ってやってんだけど?」 「…………………」
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