襲来、そして

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バッグを置きながら敬吾が覗き見ると、逸の顔は思ったより明るかった。 「すげえー……!何ヶ月ですか!?」 「七ヶ月だよー」 「ふわあ……!おめでとうございます……!!」 「えへへ、ありがとうー」 感激しているらしい逸の祝福に嬉しげに応えた後、桜はわざとらしくその笑顔をやさぐれさせた。 「これこれ、普通こうだよねぇ妊娠報告したときって………。やっぱいっちーはいい子だなー……」 無論それは敬吾に向けられている。 「そりゃ報告も普通だった場合だ」 突然大きな腹で押しかけられ、借金の取り立てのようなことをされては、と敬吾は無言で桜を見返した。 「んで?泊まるってなんだよ。いつまでいる気だ」 「えっ、」 「ずっといる。」 「えぇっ!??」 やはりこれでもかと驚いている逸はとりあえず置いておき、敬吾はさらに冷たく桜を見る。 「ダメ。」 「ご飯とか洗濯とかやるよ!」 「間に合ってる。妊婦が家出なんかすんなって」 「家出……?」 「……正志さんと喧嘩したらしい」 「ありゃ……」 逸には心配そうに見つめられ、敬吾には窘められて桜は拗ねたように俯いた。 「……なんかあるとお腹張るんだもん」 「…………………」 「……お医者さんにも、ストレスのない環境にいて下さいって言われたもん……」 「…………………。」 こと妊娠出産となると、格段に発言力を失くすのが男の悲しいところであった………。
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