襲来、そして

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敬吾がトイレに立つと、「ねえねえ」と桜が逸ににじり寄った。 「はい?」 「最近どお?敬吾とっ」 「敬吾さんと………?」 桜の瞳がやたらきらきらと輝いている意味がよく分からず、逸はぱちぱちと瞬く。 桜はもどかしそうに拳を握った。 「もー!少しくらい進展してないの!!?」 「………?あーー………」 そう言えば、桜の中で自分は敬吾に片思いをしているのだった。 今更ながらに思い出して、逸は曖昧に微笑む。 「んーーーっと、そうですね、前よりは……誘ってもらえることとか増えたかなー……?」 色々と。 どうも危なっかしいので最低限嘘はつかないように言葉を選びつつ、逸はコップで唇をふさいだ。 逸の冷や汗には気付かず、桜は瞳を輝かす。 「そうなんだ!ところでいっちゃんどこ住んでるの?近所?一人暮らし?」 「一人暮らしですよ。敬吾さんと同じアパートなんです」 「………………」 珍しく桜が黙ったので向き直ると、どうも以前どこかで見たことのあるような目の色をしていた。 「………お姉さん?待って下さい偶然ですよ?俺敬吾さんと知り合う前からそこ住んでましたからね?」 「あ、そうなんだー」 それで納得したらしく、軽く瞬いた後桜は悪戯っぽく笑った。 「じゃあさ、あたしがいる間、こうやってちょこちょこ呼んであげるね!一緒に出掛けたりご飯食べたりしよう!」 「へ……………」 逸はまた、きらきらしている桜をきょとんと見返す。 「だからぁ、その間に敬吾と親交を深めましてね?」 「…………。あ、あぁーー!……」 やっと合点がいった逸が、焦って大仰に頷いた。 桜も同じく、満足げに頷く。 「ほんでもう手籠めにしてしまいなさい!」 「手籠めって!」 まさか、というように苦笑しながら、今更ながらに逸は衝撃を受けていた。 どうも、考えずとも分かるはずのことから目を背けていたようだ、つまりーー (お姉さんに呼ばれなきゃ、敬吾さんの部屋行けない………………?) ーー今日は水を差されて残念でした、で終わる話ではなかったーーー。
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