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「なんか冷えてきましたね。温かいの淹れますか」
「うん……」
話してくれるでしょう?とでも言いたげに、逸は直接的なことを言わない。
声音も過不足なくいつも通りで、信頼への対価を求めているようだ。
全く、従順なふりをして強かな男だーーー
逸からコーヒーを受け取りわざとらしくため息をつくと、逸は嬉しげに微笑んで首を傾げる。
何もかもお望み通りか。
とりあえずはリビングへ移動してベッドに腰を下ろす。
それでも敬吾が言い倦ねていると、逸はしばらくゆっくりとコーヒーを飲んでいたがそのうち目に見えてそわつき始めた。
危うい手元でカップを置き、横ざまに敬吾の腰を抱く。
「うわ、ちょっ」
「充電切れそうだったんですもん……」
拗ねたような言い方をする辺りまだ余裕はあったようだが、それでも逸は敬吾の首筋に唇を付け、嗅ぐように深く呼吸をする。
素肌の腹を撫でられて敬吾の背中がざわりと縮んだ。
ーーそうして、先日抱かれたときのことを思い出してしまう。
またぞくりと熱が走った。
「あ……待て、ちょっ……」
「んん……」
逸の手はそれ以上際どいところに進みはしないが止まってもくれない。
そんな浅い愛撫だけで、ただ純粋な熱が過剰に溜まってしまう。
「待って、いわい、」
返事がない代わり、逸の呼吸は切なげに上がっていく。
それに呼応して敬吾の鼓動もまた速くなった。
逸の手が、徐々に上がっていく。
ーー求められている。
「っあ……」
応えたい、とは思うのだがーーーー
「っごめん!やっぱヤダ!!!」
敬吾は、逸の肩を思い切り押しやってしまっていたーー。
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