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一も二もなく力任せに遠のけられてしまい、傷つく間もなく逸はぱちくりと瞬いていた。
存分に驚いた後は、一秒ごとに懸念が心を重くしていく。
「………えっと………、……俺なにか、しました……?」
形だけ微笑んではいるが困惑を隠せない様子で逸が尋ねると、言ってしまったとばかりに固まっていた敬吾はぐっと俯いた。
物理的に離れていたことも、少し控えろと窘められたこともあるが。
こんな風に「嫌だ」と言われたのは初めてだ。
本当に何かしてしまったのだろうかと逸がヒヤヒヤし始めたところに、意を決したように敬吾が口を開く。
拒絶を体現していた、逸の肩に置かれた手が申し訳なさそうに下がっていった。
「…………あの、お前になんかされたとか………俺が怒ってるとかそういうことではないんだけど」
「ーーあ、はい……」
とりあえずは安心してほっと息を吐き出し、逸は敬吾の言葉を待つ。
「……………あの、な」
「……………はい」
敬吾はやはり口が重く、緊張しているようでそれが逸にも伝わってきた。
所在なさげに手首あたりに下りていた敬吾の手を、逸が握り返して膝の上に置く。
敬吾は諦める形で緊張を乗り越えたらしく、疲れたように息を吐きだして口を開いた。
「……この間、した時さ」
「ん?……はい」
「俺………ちょっ、と変、だっ……ただろ」
「………………へん?」
逸はやはり、しばらくぱちくりしていた。
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