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「………へ、へん?」
逸が重ねて問うと、徐々に赤らみながら敬吾が頷く。
子供のように首を傾げながら上を見て、逸は先日のことを思い返してみた。
確かにいつも通りとは言い難かったが。
「ドライでイッちゃったことですか?」
「いい言うなっーーー ……?どらい?」
あまり言葉で表現されたくない敬吾は半泣きの顔をがばりと上げて抗議するが、耳慣れない単語にそのまま首を傾げてみせた。
そのあどけなさに逸は破顔する。
「うん……出なかったでしょ。ああいうの」
「…………?はあ」
逸がいやらしい言い回しをしないことで、敬吾は冷静に、しかしまだ分からない様子で眉根を寄せた。
「俺も聞いた話なんでよく分かってないんですけど。男がイくのとは……射精とは別物みたいですね」
そう言った逸の目つきが、言葉はまだ保健体育のように平静なのに少々それにそぐわない。
敬吾が僅かに視線を逃がすと、それを諌めることもなく逸は優しく髪を撫でて頬を寄せた。
「頭でイく感じ?とか、全身で、とか」
耳に近くなった声の響きが強すぎる。
遠のけたいが、今度はそれが許されなかった。
声音は優しいままなのに強く項を掴む手が怖い。
「そうでした?」
「……っわかんない、っ」
「引かないとは言ってましたね、敬吾さん」
「………………っ」
「……今、思い出してる?」
ーー怖い。
またこうして、自分は作り変えられる。
この男の手で、強要はされないのに有無は言わせずーーなにか、見も知らぬ自分に。
けれど、拒もうと思えばそうできたはずだ。
そうせずに逸の手を受け入れたのは敬吾自身だと自覚してもいた。
後悔しているわけではないがーー
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