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「………ま!待てって!……」
そうだ、「嫌だ」と言われたのだったと思い出して逸は大人しく顔を離す。
どうも敬吾が少し怯えているように見えて、心配にはなるのだがこの人のこんな頼りない表情はそうそう見られるものではない。
また逡巡し始めた敬吾の顔を、逸は穴が開くほど凝視する。
不注意なことにそれには全く気付かず、敬吾は真面目に言葉を選び続けていた。
「ーーだ、だからな……その、ドライ?が、俺はちょっと……………怖くて、ですね」
「ですね………、はい」
突然の敬語に、逸はぐっと鼻の付け根を押さえつつにやけた顔を隠す。
喜んでいるのがバレたら空気を正されてしまうーーー
「ちょっと………避けてた。ごめん」
「………はい」
吃りかけながらもどうにか言い終えた敬吾を褒めてやるように抱き締めて、逸はその髪に頬をすり寄せた。
「敬吾さん、ちょっと辛そうでしたもんね。俺も最初気づかなくて……すみませんでした」
「うぅ……謝られんのもなんかあれなんだけど………」
「俺の加減でどうにかできるものならするんですけど、その辺よく分かんなくて」
「う、うん」
野良猫に手を伸ばすような、警戒させない穏やかさで逸の手が敬吾の腰からその下へとゆっくり下りていく。
「でもじゃあ、ここはもうずっと嫌?」
尾骨を擽るように撫でられて、敬吾の背がもどかしく仰け反った。
「………ごめんなさい」
困り果ててしまったような敬吾の泣き顔が見ずとも目に浮かぶ。
苦笑しながら真摯に謝って頭を撫で、逸はなんとか顔に焦点を合わせられるところまで下がった。
「ーーじゃあ今日、こっちだけしてみましょうか……」
「っ……」
今度は前から腿の間に手を入れられ、敬吾が体を硬くする。
逸は悪戯っぽく笑った。
「へ……?」
「抜きっこですね」
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