逃亡、降伏

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逸の好きなところも、弱いところももう知ってしまっている。 「っは………敬吾さん………、」 苦笑いはするものの、逸の腰は早まり、乾いていた音は一気に湿り気を帯びた。 手の中にそれが広がるに連れ動きも感触も滑らかになり、溶け合うようで、そんな中で指の畝を鎌首が擦るのは強烈な刺激だった。 濡れた音とともに親指の付け根を何度も突き上げられ、締め付けた手を押し広げられる感覚にーー体の奥に、きゅんと引き攣るような、切ない痛みが走る。 思わず逸を呼ぼうとした瞬間に、額を押し上げられ半端に開いた唇に強くかぶり付かれた。 性急に割り入ってくる舌に、そこまで出ていた名前も欲求も絡め取られる。 それが胸の中で暴れ、手の中は更に熱く擦り上げられて、濡れた音と鼓動が溢れかえって息も出来ない。 叶わないその感覚を欲しがる腰が浮く。 そこにいない逸にひとり絡みつくように締め付けてしまう体の芯に、幻視のような、無いはずの快感が漂った。 「ん……………っ」 舌も唇も強く吸われ、詰まっては暴れる逸の呼吸の向こうに手の中から溢れて滴る精液が見えた。 指の隙間から腹部へそれが落ちるたび、どうしてそれが外にあるのかとーー ーー考えてしまって敬吾は一気に赤らんだ。
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