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ーー敬吾が目を覚ました時傍らに逸はいなかった。
珍しいことに先に起き出していたらしく、台所から音がする。
数分だけうとうとと微睡んでから諦めて起き上がると、敬吾の股関節が豪快にごきんと鳴った。
「うおぉ!?」
「敬吾さん!?どうかしました!?」
その音に驚いた敬吾の声に驚いた逸がお玉を持ったまま駆け込んでくる。
その様があまりに滑稽で敬吾がひとしきり笑い転げてしまってから、やっと話は再開する。
その頃には逸は真っ赤だった。
「や……、いやーーなんでもない、足の付け根からすんげー音した……あー、笑った」
「そんな爆笑してるとこ初めて見ましたよ……」
「ここ三年くらいで一番面白かった」
「……光栄なんすかね……。痛くはないですか?」
「んー、すっきりしたから首が鳴るみたいなもんなんじゃね」
安心したように頷いて、逸はシャワーを勧めた。
だるそうだが素直にそれに従った敬吾がまた叫んだのは数分後。
知らずに聞けば猫の喧嘩でも始まったかと思うような、言葉にならない驚愕の雄叫び。
「敬吾さん!?今度はどぅっ……」
逸が風呂場のドアに近寄るなり、それが勢い良く開いて額が割れそうなほどぶつかった。
もんどり打って痛がる逸を、仁王立ちの敬吾が見下ろす。
その表情もまた仁王如来そのものである。
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