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恥じらって言ってくれたならどんなにか可愛いだろうーーと思うのだが、敬吾はまるで田舎の祖母のお代わり攻撃でも断っているかのような切実ぶりだ。
それほどまでにお腹いっぱいなのか。
「そうだな、色気なんか介在してねえからな!いらんこと考えんなマジで」
「そ、そこまで………?」
逸もさすがに落ち込むよりも苦笑してしまい、ひと主張終えて大きく息をついた敬吾をまた改めて抱きしめた。
そうしてまた、暖かく乾いた香りのする髪に鼻先を埋める。
「……でも敬吾さん、恥ずかしいからとかだったらやめてくださいね?あの時の敬吾さんやばいくらい可愛かった………」
「………………!」
何を思い出しているのか耽ったような声でそう言われ、敬吾の背中に熱が走った。
ーーが。
敬吾はすっと半眼になる。
「……ふうん、お前こそ物足りなくなってんの?」
「………………へ?
……………………いやいやいやいやいや!!!違います!!全っ、然っっ、違います!!!!!」
本当に思いもしなかったらしい、いかにも驚愕と言った響きの逸の喚きに敬吾もさすがに笑ってしまう。
「ーーだろ。」
「…………………」
宥めるような敬吾の声に、逸はぽかんと口を開けて数度瞬いた。
そしてその後、ふと笑う。
「……………はい」
そのたった一言がすとんと腑に落ち、穏やかな気持ちになってーー逸は敬吾を抱いたまま、暖かい布団にもぐり込んだーー。
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