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初めて向かい合わせに抱いて、自分の首にあんなにしがみつかれて。
冷静でいろと言う方が無謀だ。
敬吾が今まで押し殺していた声も呼吸も、あの距離ならば聞こえるのだと初めて知った。
もう、愛しくて愛しくて気が触れそうだった。
腹の底から突き上げられるような、凶暴なほどの興奮。独占欲。度外れた多幸感。
もはや愛情からは足を踏み外してしまったような滅茶苦茶に抱いてしまいたいという欲求を、それでもなんとか抑えつけたつもりだった。
(……絶対なんか変な脳内物質出てたよなあ)
忘れていた呼吸を久方ぶりに吐き出して、逸はやっと顔から手を離した。
味噌汁が沸いてしまっている。
コンロの火を止めて味噌汁をよそい、玉子焼き、納豆、肉味噌、漬物と食卓へ運んでいく。
およそ若い男らしくはない食事だが、敬吾が白飯党なので期待には添いたい。
そこへちょうど良く敬吾が浴室から出てくる。
そして逸の顔を見るなり噴き出した。
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