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「俺岩井君のこと頼りにしてんだよー」
苦笑してそう言う後藤を、逸は歯牙にもかけない様子で見やりながら小さく息を逃がす。
「なんすかそれ。もうくっついちゃえばいいじゃないすか」
「え?」
「柳田さんでしょ?この間の」
「……え、うん」
逸は相変わらず面倒臭そうにドリンクを飲んでいるが、後藤は水でも掛けられたように驚いた顔をして逸を見た。
それに気づいた逸も意外そうに目を見開く。
どうも表情の読めないーーやや嘘くさいーー男だと思っていたから、こう明け透けな顔をされると少し好意的に捉えてしまう。
「……え?どっから知ってんの?俺敬吾にも喋ってないけど。ヤナと話ししたとか?」
引き続き驚いているらしい後藤の様子が少し可笑しい。
本人は至って真剣なようだが、誰でも種を知っている手品に全力で驚く子供のようにも見えてしまう。
笑ってしまいそうになって、咳払いをしつつ逸は口を覆った。
「いや?ファミレスの時以来会ってませんけど、あの時点で俺この人後藤さんに惚れてんなって思ってましたよ」
後藤が更に、ぽかりと顎を落とす。
逸は流石に訝しげに眉根を寄せた。
「……え?後藤さんも気づいてなかった口?」
「全っ、然!えっマジで!?」
「こっちがマジでですよ!鈍すぎでしょ!」
敬吾といい後藤といい、もしかして自分がおかしいのかと思ってしまうほどの無頓着ぶりだ。
無論後藤も方向性は違えど同程度に驚いていて、乗り出していた体を椅子に預けながら嘆息を漏らしていた。
すっかり感心しているような表情はやはり本心からのもののようで、逸は今度こそ噴き出してしまう。
「……で?なんて言われたんですか?」
「……いや、えーっと……好きになってしまいました、と」
「ぶはっ!」
平たく言えば荒んで見える雰囲気の後藤が未だ放心したようにそう言ったのもそんな素朴な告白を受けたのも妙に面白く、逸はしばらくそうして笑っていた。
後藤はさすがに「そんなに笑うかね」と眉根を寄せたが、それもやはり、子供のようだった。
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