意識の彼方で

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意識の彼方で

「岩居さん、ちょっといいすか」 因縁でも付けているような呼びかけに、敬吾は少々驚いて顔を上げた。 そこにいたのは何のことはない、ゼミの後輩の女の子である。 「ーーああ、葵ちゃんか……びっくりした喧嘩売られたのかと思った」 「あっ!すみません」 恥じ入ったようにショートカットの襟元を掻く姿に笑ってしまいながらも席を勧めると、葵はこれまた恐縮したようにちんまりと腰掛けた。 話せばこうして可愛らしい女の子ではあるものの若干粗雑さが見え隠れするのは、実際わんぱくな時期もあったとのことだが体育会系の生活が長かったことが由来であるらしい。 「あの、岩居さんにちょっとご相談がありまして」 「うん?」 「実は彼氏ができまして」 「待って、それほんと相談相手俺で合ってる?」 傾けていたコーヒーのカップを置き、顔の前に手を立てながら敬吾は確認を取った。 年寄り臭いとすら言われるほどに浮き沈みの少ない性格からか相談事はよくされるが、こと色恋沙汰に限ってはまずされたことがない。 一にも二にも理論的な提案や回答は、女心だの恋心だのというものからはかけ離れているらしかった。 「合ってます、なんとなく彼氏と岩居さん似てるんす」 「えぇ?うーん……ならまあ……」 戸惑いは増すばかりだが間違っていないのなら聞かないわけにも行かない。 腑には落ちないが敬吾は葵の言葉を待った。 「あのー、何ていうか。好きって言ってくれないんすよ」 敬吾は咽た。 全くもって予想しなかった方向からの投球であった。
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