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車から降りた小林は、真っ暗な峠に一人取り残される形になってしまった。おれはおばけなんて信じていないつもりでは居たが、冷や汗が止まらなかった。
近藤 峠、超えたな……。
霧島 マチコさんはいなかったな。
近藤 ああ……。
霧島 あのトンネルがクライマックスだ……。
近藤 ……。
霧島 いくぞ……
バゴォン!!
何かがボンネットに当たる音がした。
霧島 な、なんだ!
近藤 何かひいたんじゃないか!?
霧島 い、いや、そんな感覚はなかった。
バゴバゴバゴ。
音が増えた。
近藤 お、おい。
霧島 お、お音だけだ
バゴバゴバゴ。
おれは音のする方をおそるおそる見てみた。
近藤 ッ……!
おれは後部座席の窓にへばりつく髪の長い女を見てしまった。
近藤 霧っ、し、まぁ……
霧島 し、ししら知らねぇ!
近藤 ま、ままマチコ、さんっ?
おれは気がついた。霧島はとっくにバックミラーで見てしまっているのだと。そして必死に見なかったことにしていることに。
近藤 ふりおとせ!
霧島 う、うあおをおあおおっ!
アクセル全開で制限速度を大幅に超える。
ガグンッゴッゴッゴッズザザザザザザザザ
今度は明らかに振動として車に伝わった。
近藤 なななんなんだよぉ
霧島 ひ、い、いただろ、お、おばけ、いただろ! マチコさんだよ!
近藤 い、いたいたいた! 居たから! 信じるよ! もうやめてくれ! マチコさんおれが、おれが悪かったから!
ズザザザザザザザザザラララザララザザザザザザ
猛スピードでトンネルを抜けた霧島はすぐに急ブレーキをかけた。そうしないと急カーブで曲がりきれずに真っ逆さまだからだ。
霧島 うううわわわわわっ
近藤 と、とまれとまれ!!
ザザザザザザズザザザザザザザザザザザザ
ガックン……と車はギリギリのラインで停車した。
近藤 は……はぁ……
霧島 ……
近藤 ……
霧島 見てきてくれないか……
近藤 ……い、いやだ……
ずっと何かを引きずっている音は聞こえていた。おれも霧島も気がついていたのだが勇気が持てない。
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