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「ねえ樹(いつき)、私、樹のことが好きだよ」
「……俺でいいの?」
「うん、樹がいいの」
桜の木の下に立ち、樹と向き合う。
私の言葉に、樹は少しだけ驚いたような顔をした。
そして、すぐに嬉しそうに、だけど少しだけ寂しそうに笑って。
「俺、病気だよ」
「知ってる。毎日、記憶が無くなっちゃうんでしょ」
私がそう笑って答えると、樹は困ったように笑う。
その笑顔が、明らかに無理に笑っているのがわかってしまう。
「私の前では、笑ってごまかさないでいいよ」
樹は、苦笑いをこぼす。
「みんな言うよ、それ」
樹の言葉に、私はグッと唇を噛み締める。
「でも、言う。私は、樹のこと絶対忘れない。樹が昨日何をして、何が楽しくて、どんな風に思ったのか。絶対に忘れない!」
一歩、樹との距離を詰める。
「樹が忘れても、私が忘れない。忘れたり、日記を書き忘れたら、私が全部教える」
樹の手を取る。その手は少しだけ、震えていて。
「樹、楽に生きよう」
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