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もう、樹と付き合って10年かあ……。
樹は、変わらず毎日記憶を無くしている。
一緒に住み始めも、朝起きると日記を読み忘れたら、「誰、あんた?」が一言目なんてことも、たまにある。
樹は、私の名前を呼ばない。
理由は知らないけれど、たぶん、合っているか自信がないから。
友達はそれでいいのかってきくけど、それでいい。
それでも、樹が好き。樹の笑顔が見たい。
母校に着き、私は校門から首を伸ばし、グラウンドの方を見る。
休日の高校は、部活をしている学生の声で賑わっていた。
グラウンドでは、野球部が試合をしているらしく、学校には一般人が多くて、私と樹は怪しまれることなく学校へと入れた。
「おーい、こっち」
樹はそう言って、スマホを見ながら私の前を歩く。
そんな樹を不思議に思わずにはいられなくて。
「ここだ」と言った樹が辿り着いたのは、桜の木の下だった。
私が、樹に告白をしたばしょ。
「懐かしいなあ。夏だから、花はないねー。樹、この木はさ」
「サクラ」
「そうそう、桜の木で……」
ゆっくりと、自分の目が見開かれていくのを感じた。
振り返れば、小さな箱を開けた樹が、優しい笑顔で立っていた。
「俺と、結婚してください」
「……い、つき……?」
「10年間、俺を支えてくれてありがとう。毎日、俺に教えてくれてありがとう。全部思い出せないけれど、でも……日記にいつも同じ名前があるし、覚えてないのに居心地がいい」
唇が震える。視界が霞む。
「な、んで……だって……日記には……」
何も、書かれてなかったじゃないか。
何で、樹が覚えてるの。
「お前が見たのはさ、普通の日記だろ」
「な……」
なに、普通の日記って。
樹は鞄の中から、私が見たことないノートを取り出した。
ピンク色の、ノート。
タイトルには、『サクラ日記』と。
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