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「………ねぇおじいちゃん、何かお話して?」
暖炉の仄かな明かりが、ベットに横たわった金髪の少年とロッキングチェアに腰かける白髪の老人を照らす。
「勿論いいとも。そうだな………神様のお話をしようか」
「……神様?」
「ああ、神様だ。おじいちゃんはね、ずっと昔に神様を見た事があるんだよ」
「……ふぅん」
「昔、おじいちゃんがバイクに乗って山道を進んでいた時、車輪を滑らせて谷に落ちてしまったんだ。とてもとても深い谷にね」
「だけど、落ちた時、おじいちゃんは確かに見たんだよ」
「こっちをじっと見つめる、神様をね」
「気付いたら、おじいちゃんは草むらで横になっていたんだ」
「………ふぅん、フシギだね」
少年はうつらうつらとしながらそう呟き、やがて眠りに落ちた。
老人は、慈しむような目で少年の額を撫で続けていた。
金髪の青年がバイクに乗って山道を疾駆していた。普段ならとても出さないような速度で、危篤の祖父の為に走っていた。
そして、曲がり損ねた。
タイヤが滑り、バイクが派手に横転する。青年は宙に投げ出された。
地面は、無かった。
見る見るうちに壁が生えてくる。空が遠くなる。強烈な風が背中を叩く。
青年は、自分が転落したことに遅まきながら気付いた。しかし、もがけども、あがけども、 重力は無慈悲に彼を引きずり下ろす。
青年の肉体が地に叩きつけられた瞬間、唐突に夜が訪れた。闇の中で輝く巨大な金色の眼が、死を理解できない彼を覗き込んでいた。
青年は草むらで目を覚ました。空は茜色に染まっていた。
「……………………夢、か?」
リアルな死の感触を思い出して震えながら、青年は歩き出した。
見覚えの無い草原を抜け、妙に古臭い町へ向かって歩き出した。
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