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 誰が見ても完成されたものであることは、颯真が見ても一目瞭然だった。  それでも信じることが出来ない彼は、概要に記されていた電話番号を見つけると素早くメモした。  午後十時を回った今、電話が繋がるとは思えない。掛けたところで留守番電話に切り替わるのは目に見えている。それならば明日、外回りに出た時に掛けて確かめればいい。  電話が通じなかったり、使用されていない番号であれば、財団法人としての機能は認めない。  ホームページを隅々まで見渡して、新着トピックの見出しをクリックする。  そこには『個人遺伝子情報報告書の送付について』というタイトルで、詳細な説明は伏せられてはいるが、颯真に送られてきた封書の事が書かれていた。自分以外にも同じ特異体質の者がいるのか……と初めて気づく。  ここに大々的に公表されているところを見ると、かなりの確率で遺伝子変化による『メス化』を避けられない童貞男子が存在しているという事になる。  そういった稀少な存在は、現在問題視されている少子化に歯止めをかける役割を担うとも言われているらしい。 「冗談じゃない! この俺がメス化するだと? その辺のモテないオタク野郎共と一緒にするなっ。俺はやるべきことをやってきたからこうなったわけで、決してモテないわけじゃないんだぞっ」  容姿端麗、仕事も出来る、金銭面でも苦労は何一つない。ついでに言えば、未使用ではあるが颯真のイチモツは一般人のソレに比べればはるかに長く太い。これも、日々行われている鍛錬の成果なのだろう。  鍛錬と言っても、ただ自分で慰めるという寂しいものではあるが、常に孤独と射精後の虚しさと戦っている精神力は常人の域を超えていると自負している。  仕事だけでなく、ゲイ専門チャンネルで学んだテクニックには自信があり、それなりのプライドもある。  それなのに――。なぜか一度根付いてしまった不安は、なかなか消えてはくれない。  悪質な悪戯だと思う反面、これが事実だとしたら……という恐怖が付き纏う。  もしも、これが良く出来た作り話だとしたら、颯真ほどの男を――いや、この国に存在する全童貞を騙した詐欺師として、歴史上その名を後世に残すことだろう。
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