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しかし、書面には金銭要求をほのめかす一文はどこにも見当たらない。
詐欺であれば、期日までに振り込み云々という文章があってもおかしくないはずだ。
液晶画面に顔を近づけ、再びホームページを見つめながらスクロールを繰り返す。
(どこかにボロが出ているはずだ……)
何度見ても変わらない画面。目を皿のようにしてやっと見つけることが出来たのは、問い合わせの際には封筒に記載された六桁の番号が必要だという事だけだった。
(あ……。これ、大事かも)
急いでメモを取る自分に、ハッと息を呑む。
次の瞬間、颯真は表示されているブラウザを閉じると、新たに検索を始めた。
それは、いわゆるゲイ専門の出会い系サイト。
近間で、後腐れなくヤらせてくれる相手を探すには、これが一番手っ取り早い。だが、知らない相手との性交にはそれなりのリスクが伴う。
一番警戒すべきことは病気の有無だ。さすがに出会い系掲示板にそこまで書き込むヤツはいない。
もし、初めてのセックスで病気に感染したら、それがトラウマになって人間不信に陥る可能性はある。
それほど、三十二年間という長きに渡り守り続けて来たモノは尊く、デリケートなのだ。
いっそのこと、美弦が言うゲイ風俗に行った方が楽になれるかもしれない。怪しい店でなければ、大概はスタッフの性病検査は定期的に実施している。
それならば感染のリスクは確実に減るが、この歳で未だに童貞と陰口を叩かれ、笑い者にされる事は自身のプライドが許さない。
ハッテン場も、気楽に出入り出来る場所もあれば、完全会員制で落ち着いた雰囲気の店もあり、洗練されたインテリアと大人の駆け引きを上質な酒を飲みながら楽しめる。颯真の理想としては後者ではあるが、会員になるにはそれなりの審査が必要で時間を要する事と、各界のエグゼクティブが出入りするという事は顧客と顔を合わせる可能性がネックになっていた。
出来ることならば、ゲイであることは知られたくない颯真だったが、今はそんな悠長なことを言っている暇はない。三十三歳の誕生日まであと四ヶ月弱……。
その間に童貞を捨てることが出来なければ、男としての全てを捨てて、ただ子を孕むだけのメスとして生きていかなければならなくなる。
「ヤバいぞ……」
顔を覆いながら天井を仰ぐ。グルグルと巡る思考に疲れ、ギュッと目を閉じた。
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