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 この期に及んで“初体験”の理想をかなぐり捨てることが出来ない自分が恨めしい。  どうせ抱くなら可愛い男がいい。従順で決して人の事を蔑まない、優しくて思いやりのある子。それに加えて、さりげなく颯真をフォローし、男としてのプライドを傷つけることなく、ただただ快楽を貪り合えるパートナー。  今となっては、そんな理想的な相手が存在するとは考えられない。もしも、すべてに合致する男と出会っていたら、颯真は童貞をとうに喪失していただろう。  エリートとしてのプライドは絶対に捨てられない。理想も追いかけたい。面倒な恋愛感情などは必要ない。  とにかく、童貞を捨てたい!  自身が、どれだけ自分勝手な事を言っているか自覚はある。それでも、これだけは譲れない!  マウスを握りしめたまま、キーボードにうつ伏せて低い唸り声をあげる。  こうして、颯真のたった一人の長い夜は更けていった。
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