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 偶然見つけたイケメン王子の口から飛び出した強烈な毒に、彼女は度肝を抜かれたのか息を呑んだまま黙り込んだ。  目を見開いたままフリーズする彼女を無視して歩き出した時だった。 「主任っ!」  聞き慣れた声に振り返ると、そこには部下である藤原美弦が小走りで近づいて来るところだった。  颯真から見れば小柄で、二十六歳にしては少し幼さを残す女性的な顔立ちの彼は、営業一課内でも比較的多くの担当企業を受け持つやり手の一人だ。  入社当時から営業部の上司として彼を見て来た颯真は、見かけによらず頑固で一本芯が通った彼に一目置いていた。最初は『本当に使えるのか?』という不安しかなかったが、意外にもこの営業という仕事にやりがいを見出し、めきめきと頭角を現しつつあった。 「藤原……」  颯真と肩を並べて歩き出した彼は、わずかに息を切らして小さく頭を下げた。 「お疲れ様ですっ」 「お疲れ。今日は確か、新規の契約だったな」 「ええ。話好きな社長で、予想外の足止めを食らいました。ところで……主任、あの女性は知り合いじゃないんですか?」  チラッと肩越しに振り返った美弦の腕を力任せに掴むと、颯真は「見るんじゃない」と厳しい声で制した。 「え……?主任と話し込んでいたじゃないですか。ホント、隅に置けないなぁって見てたんですけど」 「勧誘だ」 「は?」 「宗教の勧誘。だから目を合わせるな。お前も誘われるぞ」  パステルピンクのワンピースにベージュのジャケット、長い栗色の髪は丁寧に巻かれ、腕にはエルメスのケリーを掛けている彼女。どう見てもその手の人物には見えない美弦は不思議そうに首を傾けた。  颯真が、どこに行っても女性から声を掛けられるという噂は耳にしていた。  同性である美弦が見てもいい男だと認めざるを得ない、大人の色気と完璧とも言えるビジュアル、そして仕事の才能を兼ね揃えた上司だ。  しかし、今日の彼の横顔はどこか憂いを帯びていた。自信に溢れ、怖いものなど何もないという様子とは少し違うようだ。 「――主任。何かトラブりました?」  美弦の言葉に驚いた颯真は、その動揺を取り繕うように口角を皮肉気に曲げて笑って見せた。 「別に……」
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