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「あの……。こんなこと言ったら怒られるかもしれませんが。あの女性は主任の彼女なんじゃないですか?」 「はぁぁぁぁっ? お前……この俺が、あんなブサイクな女と付き合うと本気で思ってるのか?」 「ちょっ! そんなに大声出したら聞こえるでしょっ」  急に声を上げた颯真の腕を今度は美弦が掴む番だった。通りすぎる人たちが何事かと振り返る。  バツが悪そうに周囲に目を配りながら、美弦は小さく吐息して彼を見上げた。 「言っておくが……。俺のレベルはお前が想像してるものよりもはるかに高いんだからな」 「それで、女性社員の誘いを断っているんですか?」 「まあ……理由は、それだけじゃないがな」  フンと鼻息荒く言い切った颯真は、隣に並ぶ美弦の横顔をチラリと見た。  色が白く細身ではあるが程よく引き締まった体にタイトなデザインのスーツが似合っている。歩くたびに柔らかな栗色の髪が揺れ、ワイシャツの襟元からチラリと見える襟足が何とも艶めかしい。  微かに香るのは爽やかなソープと煙草の匂い。  喫煙室では細い煙草を唇に挟む彼の姿を何度も目にしているが、部下だと分かっていても違った目で見てしまう自分がいたことは否定できない。  颯真の視線に気づいたのか、前を向いて歩いていた美弦がふっと顔を上げた。  薄い唇がふわりと開き、細い腰がわずかに捩じれ、上着のウェスト部分に皺が出来る。 「――どうかしましたか?」 「あ、いや……」  勝気なこげ茶色の瞳が颯真を捉える。  その瞬間、颯真の中に今までとは全く違った感情が生まれた。 (啼かせてみたい……)  禁欲的なスーツの下に隠された白い躰を妖しくくねらせて、潤んだ目で舌を出してキスを強請る美弦の幻影が脳裏を掠めた。  高くも低くもない透明感のある声――。喘ぎながら颯真の名を呼ぶ美弦の姿が目の前の彼と重なり、視界がぐらりと大きく揺れた。  それと同時に、下半身がズクリと疼き、急激に熱が集まり始める。 (ちょ、ちょっと待て! おい……っ)  不自然に膨らみ始めた場所を、彼からの視線を遮るように手に持っていたバッグで前を覆った。
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