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 顎に手を添えて小首を傾げる彼女は、無邪気な笑顔は年を重ねてもあの頃と変わらない。  颯真はフンと鼻であしらいながら、吐き捨てるように言った。 「お前が一番よく分かってるだろ? あれから誰とも付き合ってないよ。男も女もな……」 「ええっ! 勿体ないっ。じゃあ、私とヨリ戻すってどう?」 「あり得んな」 「相変わらず女性には反応しないのね……。宝の持ち腐れ」 「うるさい。――で、お前は何しに来たんだよっ」 「あなたの部下になるのかしら……。藤原くんと打ち合わせしてたのよ」 「藤原と?」  彼女の口から出た予想外の名前に、颯真は心臓が大きく跳ねた。 「あなたの会社と取引するつもりはなかったんだけど、彼に口説き落とされたの……。可愛いわね、あの子。今度は私が口説き落とそうかしら」  ウフッと楽しそうに笑った明莉を、颯真は無意識に睨みつけていた。 「やめとけ」  怒気を孕んだ颯真の声に、明莉の笑みが消えた。  明莉も颯真と同様、かなりモテると聞いたことがある。愛らしさを含んだ美人系で仕事も出来る。それに女性にしては背も高く、一時期は読者モデルをしていた時もあった。引く手数多の彼女が真剣に口説くとなれば、落ちない男はいない。まして、彼女よりも年下である美弦が勢いに呑まれる可能性は大いにある。  自身が狙っている獲物を元カノに横取りされる事ほど最悪な事はない。  颯真はそんな事態になることを意地でも回避する必要があった。 「――もしかして、岩崎くんが狙ってるとか」 「上司が部下を守って何が悪い。アイツはお前には釣り合わない」 「それは私が決める事でしょ? あ……。もしかして、彼もゲイ?」 「さあな。もし、アイツもゲイだったら、お前は無意識にゲイを好きになる性癖の持ち主なんだろう」 「なに、それ……。もう、ゲイは懲り懲り。セックスしたくても勃たないんじゃ話にならないわ」 「じゃあ、他を探せ。体の相性が合う男の方がいいだろ?」 「そうね。あ、こんな時間! じゃあ、またねっ。今度ゆっくり飲みに行きましょう」  ヒラヒラと右手を振りながらエントランスへと歩いていく彼女を見送って、颯真は自分がどれほど肩に力が入っていたのかと思うほど脱力した。息を吐きながらがっくりと肩を落とす。 (どこまで勘がいいんだよ……)  今まで何の音沙汰もなく、久しぶりに再会したと思えば美弦の事をネタに弄る。
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